東青山


〇 梅を漬ける、梅を干す

2011. 6. 13 [虎の巻]
 

梅干し虎の巻、立花英久バーナーブロス 常滑の朱泥急須

一、梅干をめぐる話し 其の一

 白梅(しらうめ)を知っていますか。薬効のある梅干のことなのですが、私は白梅づくりを通じて梅の不思議に出会いましたので、そのことについて書いてみます。
 十五年くらい前の夏に東京都内の古い平屋に越してきて、庭のすみに梅の木をみつけたとき、自家採取で梅干ができる、と喜びました。花がついて実を結べば生まれてはじめての正真正銘自家製梅干。都内でそんなことができるとは思ってもみなかったので半信半疑でもありましたが、年を越して花が咲いて梅はみごとに実りました。けれども会社勤めをしていたので、黄熟梅を採るタイミングがむずかしい。やわらかい梅干をつくりたくて待っていると、落ちて傷付くものがたくさん出ます。結局、少しの傷ものはジュースにして、梅干にできたのはほんの少しでした。これなら青梅を梅酒にしたほうが割がいいので、ニ年ほどは梅干用の梅は買って、自家梅はお酒にしていました。ところが、青梅を塩漬けにして乾かした「白梅」こそが薬効のある梅干だと知りました。民間療法で使う烏梅や梅肉エキスも青梅でつくるのです。烏梅や梅肉エキスはつくるのがたいへんそうですが、梅干なら簡単だし、なんといっても庭の梅を使えるのです。実際に青梅を塩漬けしてみると、かたいので皮がやぶれたり崩れる心配もなくて気楽です。でも、干していくと、くすんで青ざめて無気味、お世辞にもきれいな色とはいえない......。梅干ですからシワがよってあたりまえですが、そうなるとますます小さな化け物じみます。黄熟梅の花のような香もなくて、なんだかつまらない......。干し上ったものを味見してみると、できたては塩がきついのは当然ですが、ただすっぱくて塩辛く、食感もいまひとつ。見た目も暗くて、これでは食欲がわかない。あぁ、やはり薬用とはこういうことか。と、肩を落として、しばらくたって黄熟した南高梅を買いました。フルーティーな梅酢と、赤く染まったやわらかい梅干ができました。でも家庭常備薬として翌年も白梅づくりはつづけました。あまりおいしくなかったのでほとんど手をつけず(人様にもさしあげられないし)、つくってはビンに入れてためこんでいました。
 ところが五年後、保存食コーナーの整理で最初につくった白梅をおっかなびっくりあけたら、それはほんのり赤みがかっていたのです。食べてみるとけっこういける。シソづけの赤ではありませんが、梅は自分自身で赤くなるのです。赤シソにつけたものは、年月がたつと赤みがくすんでシソの香もとびますが、白梅は時間をおいたほうがおいしくなるのです(とてもすっぱいのは変わりません、たぶんこれが効くんでしょう)。こうなると土用干しの無気味な化け物がかわいく見えてきます。近くに梅の木がない方も梅酒用に売られる青梅でつくって、二年以上、できれば五年寝かしてみてください。驚きの出会いがあります。梅干の原点のようです。薬効のほどは私にはまだわかりませんが、季節の植物を摘む仕事は、そのプロセス自体が薬ともいえるような気がします。だから白梅だけでなく、青いころから黄熟するまでいくつかの種類の梅ものをつくってみるのもいいかもしれません。
 赤ジソの色が映える黄熟の梅干はおいしいし、元気になる色がうれしい。赤い梅酢はサラダや漬物に重宝します。しょうゆ漬けも食べやすい。マンション暮らしやお勤めで干せない人は漬けたままの梅漬けでもいいのです。梅雨入り前の梅仕事をしましょう。
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