東青山


〇 TANKER Ⅱ

2018. 10. 29 [日用品]
 

へら絞りのアルミ盆、バール

 ごちそう


「ご馳走」と漢字で書くと、いつも思い出すのは夏目漱石の『それから』の冒頭である。「だれかあわただしく門前を駆けてゆく足音が」聞こえてきたとき、代助はぼんやりと俎下駄をイメージするのだけれど、夢うつつで、はて、下駄の音で目が覚めたのか、それとも夢の中で見た「空から、ぶらさがっていた」下駄が早かったか。<根拠>とか、<同時性>とか、書き出しが小説全体の不可思議さを暗示している、と言う人もいた。
 ご馳走。美味しいものは美味しいうちに。おいしいからすぐ食べる、なのか、すぐ食べるからおいしい、なのか。どちらにせよ、駆ける足音がどこからともなく聞こえてくる言葉である。『それから』では、「駆けてゆく足音」は「遠のく」のだけれど、この場合「駆けてくる」「近づいてくる」の方である。ごはんの支度を急ぐ買い物帰りの、駆け足を思い浮かべるのかもしれない。
「お願いだから温かいうちに食べてよ」
 僕はいつも妻にお願いされる、というか叱られている。折角こしらえてくれた彼女のご馳走を食卓の上に放ったらかしにして、他の部屋で仕事の手を止めない。あるとき、「じゃあ、タイミングを言って頂戴」と告げられた。
「うーん、あと30分後」
「オッケー」
 で、「ごはんですよ」って呼ばれる。けれどけっきょく手が離れない。前まではふくれっ面でじっと待っていた彼女は、最近になってさっさと食べている。遅まきながら食卓に座り、手を合わせて戴く。
「いただきます」
 手を合わせるのは「ごめんなさい」の意味も込めるのだけれど、それは言わない。あくまで「いただきます」であって、でも彼女の「ごちそうさま」とバッティングするときはさすがにバツが悪い。妻は自分の食器だけ片付けてその場から立ち去っていく。そのとき「私は宙ぶらりんである。」宙ぶらりんとはこーゆーことだろうか。
 それから、僕は
「ああ動く。世の中が動く」と、しれっと食器を片付けに台所まで運ぶ。
 それで? って顔をする妻と目が合う。


 この盆は

 たくさんの食器を一遍に運ぶ。イタリアのバールで使われている機能美を「写し」た。見てのとおり、どっぷり深さがあって、運ぶ途中にたとえば飲み残しがこぼれてもへっちゃらだ。アルミニウム製で軽い、一気に運ぶのにも負担にならない。「ヘラ絞り」と呼ばれる、一枚板から継ぎ目なくこしらえるので丈夫が信条。『タンカー』と名乗る。錨を下ろした停泊はみなが寝静まったころだけ。さあ、ご馳走を運べ、運べ。馳せる気持ちが形になったか、後片付けの効率か。岸から岸へ、況んや食事の船である。

 商品名 TANKER Ⅱ
 素材  アルミニウム
 製造  坂見工芸(東京都荒川区)
 制作  東屋
 寸法  径355mm × 高48mm
 重量  約400g
 価格  9,720円

TANKER Ⅱ  

 

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