東青山


〇 醤油差し

2012. 3. 31 [日用品]
 

たれない醤油差し

 だらだらしない。
 こゝろがけが、きもちいい。
 

 ごらんのとおり、わたくし「醤油差し」と申します。と、名乗ればきっと「あっ、そうそう、そう言われればたしかに」とおっしゃってくれるはず。ならば多くは語らずとも、といきたいところですが、わたくし「新顔」にはちがいありませんので、ここはあらためまして、ちょこっ、とだけ、ごあいさつを。どうも、はじめまして。
 なーんて、お辞儀でもすれば、やっぱりこの口もとに目がいきます?はずかしながら、たしかにおちょぼな注ぎ口、ですよね。たとえばほら、よく言うじゃないですか。ほんのすこーし傾けただけなのに、どぼっと出ちゃったとか。だらだら垂れたりして、しまりがわるいとか。「醤油差し」の分際でストレス溜めてどうする、ですよね。なにも、聞き捨てならないコトバに口をとんがらせて下向いちゃったわけじゃないんです。口はつつしみ、つつましく、下向きのこのカタチこそが、ひたむきさの表れだっただけのこと。だってわたくし、「醤油入れ」にあらず、あくまで「醤油差し」にございます。ちょこっ、とお辞儀がてら、おしょうゆを差すことがわたくしの役目。必要な分だけ差して戻せば、おしょうゆはひょいっ、とひっこんでくれて、口のまわりを汚しません。まして、いらぬ面倒などかけさせない。だらしのない格好はお見せしたくありませんので。「醤油差し」に大事なのは、こゝろがけひとつ。だらだらしない、切れがいい。これぞ「醤油差し」の誇りにございます。
 ところでわたくし、けっこう小柄なほうでして、いうなれば控え目。「食卓に、必要な分だけ」を信条にしております。「おしょうゆ取ってー」と、声がかかってはじめてお目にかかるていど。べつにいいんですよ、フルネームで呼んでいただかなくても。中身あってのわたくし、図体ばかりが大きいと、中のおしょうゆを無駄に酸化させてしまいかねない。それじゃー、身も蓋もあったもんじゃないでしょ。このくらいがどうやらちょうどいいようです。ときには、あっちにこっちに、移動もします。なおさら、手わたしやすく持ちやすく。ちょこっ、と食卓の上にでも控えさせていただければ、この上ないシアワセにございます。
 とはいえ、「ちょこっ、と」の分際にだって、「ずーっ、と」みなさんといっしょにいたい気持ちはあふれんばかりにございます。なにも、べたべたするつもりはもーとーございませんが、ただ、いつの日か、「定番」と呼んでいただければそのとき、多くは語らずとも、つかずはなれず、まっ、わたくしのこゝろがけしだいですか、ね。

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