東青山


〇 四寸皿「赤丸」

2018. 1. 9 [日用品]
 

古伊万里写しの取り皿

 取り皿


 いつも行く飲み屋には大体いつもと同じ面子で、ほとんどいつもと同じような戯言を肴に、これもまたいつものように笑い合いながらほんの数時間を過ごすのだけれど、そんなときふと気付いたのは取り皿である。取り皿に、いつのまにかいろんなものがのっかっているのだ。それも僕のだけ。そうか。というのは、しゃべるほうが優先されてなかなかツマミを口に運ばない、だから頼まれた数品の料理皿にはそれぞれぽつんと一つだけ残っている。焼き餃子とか揚げ出し豆腐とか。きっと僕宛なのは分かってはいても、この期に及んで、一つだけということに手を伸ばすことが憚られる。そのうちそういうことも忘れてしまってまたしゃべっているわけだから、ほかの連中がいつのまにかそっと配給してくれるのだ。そうやって取り皿はいつのまにかいろんなものがのっかっているのだった。万事、料理がのっていた皿はやっと片付けられていくのだけど、別に皿を片付けるために取り皿があるわけではないし、連中だって片付けるためにそうしているわけでもない(ちょっとはそれもあるのかもしれないけれど)。ようはまわりに気を遣わしてしまっているのにかわりはなく、どっちみち面倒のかかるやつなのである。というわけで、手もとの取り皿には冷たくなったツマミの面々、たまに齧りついてはまたしゃべる、大して面白くない話にも笑ってくれる、片付けられるべきは僕なのかもしれない。よって取り皿は取ることもないまま、のせられて、のせられているのをいいことにしゃべりつづける。
 給食も食べるのが遅かった。クラスメートの机が一斉に後ろに下げられても、逆さまの椅子の谷間で挟まれるようにして食べていた。そのうちオーナリが長箒の柄を切先さながら僕に向けて「めんどくさいやつ」ぎっ、と睨みつける。それでもかまわず埃の舞うなかで食べつづけた。「たっちんはそうやっていつもサボるんだから」学級委員のタエちゃんが言う。「違うんだよ、聞いてよだって」もぐもぐ。「ずーっとしゃべってるからよ」とミドリちゃんは振り向きもしない。黒板の上のほうを拭いている。ミドリちゃんはクラスで一番背が高い。そういえば、たしかにあのころはよくしゃべっていた。お調子者だった。もう少しあと、ある時期から、誰ともしゃべらなくなった。いろいろあったのだ。そういえばミドリちゃんは早くに結婚して双子を産んだんだ。とここでとやかくそういうことについてしゃべり始めると切りがないから止しておくけれど。飲み屋では、小学生並みにしゃべる大人になってしまった。面倒をかけているのはやっぱりかわらない。
「自分で取りなよ、ねえ」
 女の子の強い声がしてハッとした。ぎっ、と向こうから僕を睨みつけている。ぼ、ぼく? 初対面、黒づくめのパンク、シド・ヴィシャスぐらいあるのか、腰が高い。僕はうろたえた。あわてて取り皿、取り皿、って探すけど、えーっと、と目を上げる。すると取り皿らしきが人から人へと回されていろんなツマミがのせられてどうやらこっちに近づいてきて「はい」だれ?「あ、ありがとうございます」僕はその取り皿を取るにいたる。「取るのは取り皿じゃねーし」って叱られはしなかったけれど女の子とまた目が合った。えーと、いったい今日はなんの新年会だっけ。知らない人たちに囲まれて僕は何をしゃべっていたんだっけ。たくさんのっかった取り皿片手に、取りあえずそばにあった唐揚げを一つ、取ってみる。のっからない。彼女は隣の子としゃべっていた。ミドリちゃんの顔を思い出した。「寝てません?」誰かが言った。


 この四寸皿は

 赤丸、と名付けられた古伊万里の「写し」である。熊本の天草陶石を素地とし、長崎波佐見でこしらえた。轆轤で手挽かれたのち、素焼をし、秞をかける。それから本焼き、再度轆轤の上で、すぅーっと筆を走らせ上絵三色の独楽紋を描き切る。さらに上絵焼き。特筆すべきは赤の色だ。いわゆる「明か」である。その発色はかつては鉛に頼っていたのだけど、食の安全を鑑み鉛抜きで試作を重ねて重ねて、独自の「明か」。見つけちゃった。
 むかしむかし17世紀から18世紀へと遷るさなかに誕生したと言われる伊万里。当時は「今利」とか「今里」だったらしく、なるほど、「今」かあ。じゃあその伊万里の風情を2018年の「明け」にと。明かしちゃえば、回る独楽に見立ててまずはご紹介、と思った次第。どうか円滑にことが回りますように、なんて遅ればせながら新年めでたし、めでたしなのだけど、そっか、赤丸。それも急上昇、となればなおのこと縁起もよろしいようで。

 商品名  赤丸
 素材   天草陶石、柞灰秞、上絵具、呉須
 製造   光春窯(長崎県波佐見町)
 デザイン 杉本理
 制作   東屋
 寸法   径135 × 高28mm
 重量   130g
 価格   3,888円

四寸皿「赤丸」  

 

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