〇 銅之薬缶
早くお家に帰ろう
冬至が過ぎた。いよいよ師走は佳境である。少しだけ町も賑わいを取り戻し、敢えて活気を心がける気配にまぎれながらも、わたしたちは、ほっ、と白い息を吐くのだった。「早くお家に帰ろうよ」バスの子供たちが、大きなランドセルをぶつけあって、腰の高さで会話を弾ませている。隣のおばさんの、手にぶら下がっているのは、食材の詰まった大きな袋だ。
そうだ、早くお家に帰ろう。
たとえば、ご馳走ということば。母が食材を買って駆け戻ってくる様子から、きっと今日もごちそうなんだ、なんて絵を思い描いてみる。だけど、師走とは。忙しなさの往来なんかより、冷たい風もなんのその、早くお家に帰りたいからついつい駆け出してしまう景色のほうが似合ってそうだ。
さて、わが細君はどうか。ただいま、の声がする。がさがさっ、と玄関が色めきだつ。台所に駆け込んでくる。で、まずは薬缶に火をかける。しばらく火にみとれている。彼女にとってたいせつな時間だ。それから我に返る。料理の本を開く。沸いた湯で茶を入れてくれる。私といえばふーふーしながら湯呑みを傾ける。買い物袋からにょきっと飛び出た長ねぎを見ながら今日の献立に目星をつける。薬缶は。ゆらりゆらりと湯気を上げて、私といっしょ、彼女の邪魔にならないように、しばらくは、じっとしている。
いつものことがあいらしい。
だから早くお家に帰る。
この薬缶は
薬缶は「銅」に限る、と誰かに教わったことがある。この薬缶も、「銅」でできている。銅板を型に当て込んで成形する「へら絞り」で拵えてある。「銅」は、強く逞しく、熱伝導にも秀でている。「銅」は、抗、除菌作用が具わっている。「銅」は、塩素を分解して取り除いてくれる。だからカラダにやさしくて、おいしい湯を立ててくれる。
銅の薬缶は長持ちだ。大事に使えば「一生もの」になる。おろしたてのぴっかぴかが、年季が入ると飴色になる。日常を繰りながら豊かな顔立ちになるのである。だからいとおしく使いつづける。育てる、といったほうがいいかもしれない。さすれば台所の顔である。かがやきの変化を楽しむ、そういう薬缶もいい。
「銅之薬缶」。さいしょはなんだってまぶしいものだ。
商品名 銅之薬缶
素材 銅(外面/蝋塗り、内面/ニッケルメッキ)
製造 新光金属(新潟県燕市)
制作 東屋
寸法 幅20cm × 高さ24cm(把手含む)
/15cm(蓋のつまみまで)
容量 2,18ℓ(満水時)
価格 16,800円
〇 米櫃
保管する、ということ
子供のころからずっと使っている国語辞書によれば、「保管」とは、(他人の)物をあずかって、いためたりなくしたりしないように保っておくこと、だそうだ。「保存」は。そのままの状態を保つようにして、とっておくこと、らしい。お米の場合、どうだろう。(自然の)物をさずかって、いためたりなくしたりしないように保っておく、どうやら「保管」が似合いそうだ。
まっしろで、きらきらしたお米の粒片。さらさらと米櫃のなかに積もってゆく。そんな様子を見ていると、なんだか、ほっ、と白い息を吐くみたいに、安心したのか「しばらくねむるね」ってしんしん聞こえてくる。きちんと箱におさめてみると、「大切にする」というあたりまえの言葉が、ますますかがやきはじめる。
としを越そう。
大切なものは、大切なまま。
日のあたらない場所の、箱のかげかたちをながめていると、いつのまにかふりかえっていた。日なたに向かって、前を向こうとおもう。
この米櫃は
大切なものを、大切にそのままおさめておきたい。たとえば箱でもこしらえて、大切にとっておきたい。人の知恵がえらんだのは、「桐」という自然の恵みでした。
桐は、タンニン、セサミン、パウロニン、といった成分が含まれていて、防腐、防虫の効果があります。桐は、繊維のしくみが多孔質であるため、湿温の調整にすぐれています。桐は、何より軽量であることから、保管箱として重宝されてきた歴史があります。この米櫃ももちろん、桐の箱。毎日いただくお米を、やさしく、丁寧に、保管しておけばさらにおいしいごはんがいただけそうです。
この米櫃は、間口を広くとり、密閉性にすぐれた引き戸をしつらいました。お米の出し入れに面倒がかからず、引き戸自体が上ぶたとして取り外せるので内側のお手入れにも手間がかかりません。「指物」の密な作りが、しっかりと外気を遮断してくれ、お米を保管するにはうってつけの、これぞ「米櫃」、です。
商品名 米櫃
素材 桐
製造 松田桐箱(埼玉県春日部市)
制作 東屋
寸法 5キロ 幅24cm x 奥行30cm x 高さ18cm
10キロ 幅24cm x 奥行30cm x 高さ27cm
価格 5キロ 7,875円
10キロ 9,660円
〇 飯炊き釜
上手に炊く、ということ
上手に炊けた、と私たちは最近言ったことがあるだろうか。たとえば「上手に炊けたね」と、言ってあげたことがあるだろうか。
「電気ごはん」に身を任せていると、いまや使わないコトバ、なのかもしれない。
受け身でごはんをいただくことから、すこーし距離を置いてみる、それからほんのちょっとでいいから「手間」をかけてみよう。米を研ぎ、水加減は刻印された目盛りに頼らない、炊くのは、「飯炊き釜」、そう、ガス台のうえだ。ぜーんぶ自分の腹づもりで進行してゆく炊事の原点。「米を炊く」という行為をいっそこの手に取り戻してみよう、というおはなし。くわしくはこちら、虎の巻「米を研ぐ、炊く、蒸らす」まで。
この飯炊き釜は
伊賀土で拵えた飯炊き釜。三重県の伊賀の土は、耐火度が高いことから土鍋を拵えるのに最も適した土、といわれています。この飯炊き釜もしかり、長年土鍋を拵えてきた陶工の手で、程よい土の締まり具合を計らいながら肉厚にしてもらい、上手にお米が炊けるよう、まさに飯炊きのための釜に仕上げてもらいました。この飯炊き釜は、内と外、ふたつの蓋によって圧力をととのえ、吹きこぼれがありません。この飯炊き釜は、釜自らが最適な温度変化をおこなってくれるので、火加減の調整がいりません。この飯炊き釜は、肉厚のつくりから熱容量が高く、火を消したあとでも「蒸らす」に必要な温度をしっかり保ってくれます。この飯炊き釜は、通気性がよく、蒸らしながらもよけいな水分を適度に逃がしてくれます。上げればきりがないほどに、この飯炊き釜は、炊飯の極意そのもの。電気では「体感」できない、米を炊く、という行為を、もういちど台所の中心に。
商品名 飯炊き釜
(二合、三合、五合を取り揃えました)
素材 伊賀土
製造 耕房窯(三重県伊賀市)
制作 東屋
寸法 二合 直径26cm(把手含む) x 高さ16cm
三合 直径28cm(把手含む) x 高さ18cm
五合 直径31cm(把手含む) x 高さ19cm
価格 二合 12,600円
三合 18,900円
五合 24,675円
〇 オリーブのまな板
大切にすることの先にあるもの
正直言ってさいしょは、「不様」だな、そう思った。年輪が歪んでフシもあるし、形もカバンみたいだ。
「それは、オリィーヴの木で作られています」女のひとが言った。すると「オリィーヴ」だけとつぜん私のなかにぽちゃん、と落ちてきたのだった。おりぃーゔおりぃーゔ、と、波紋が広がって、それから「不様」はあれよあれよと「親密」という形容詞にとってかわるのだった。オリィーヴ。女のひとのまねをして言ってみたくなった。
「オリィーヴかあ。へえ」
「不格好ですが、ものはいいんです」
見入ってしまったのは女のひとの「オリィーヴ。」に反応したにすぎない。なのに「オリィーヴかあ。いいかもなあ」とまで口に出す始末だった。
イタリアのトスカーナで作られた、オリーブウッドのチョッピングボードのことである。たくさんの実を生み、その役目を全うしたのちいよいよ枯れてしまった木を使ってこしらえた。だけど、板材を切り出せるぐらいの太さともなれば、けっこうでかいのではないか。
「オリィーヴってそんなに大きくなるの?」
「はい、百年はかるく」
「へえ」
考えてみれば、イタリアでどれだけオリーブが大切なものか、想像に難くない。いたりあといえばおりぃーゔ、おりぃーゔといえばいたりあだ。木の一本一本が政府に登録され、つまり「国」が管理する。実をつけつづける間はたとえ所有者であっても勝手に伐採もできない。と、まあ、オリーブがイタリアでどれだけ重要なものか、女のひとが教えてくれたのだけど。私の中で「オリーブ」といえは、細長くスレンダーなイメージしかなかったのだった。
そういえばむかし、「重要文化財」に指定された古民家を取材して回ったことがある。たしかあれは、「重文」でありながら今も「住まい」としてちゃんと使われているところを見ていこう、そういった企画だった。そのうちの一軒、とあるワイン工場のそばに「藁葺きの家」があって、
「たとえ持ち主でも、無闇にタテツケひとつ直すこともできないのよね」
と、「絵になる」と踏んでいた企画の身勝手な方針とは裏腹の、第一声を聞く羽目になった。
「エアコンつけるにもお伺い立てなきゃいけないんだから」
がたがたっ、とすきま風の鳴る窓を、主は恨めしそうに振り返る。が、「しょーがないから、建てちゃったわよお。だってじぶんちなのに気を使うのもへんでしょ」と、主の視線を辿るとそこには新しい家が建っていた。
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